経済アナリストとして、あるいはテレビ・ラジオの論客として、40年以上にわたり第一線で活躍してきた森永卓朗氏。
常に「お金」と「経済」の専門家として発信を続けてきた彼が、「余命4ヶ月」の宣告を受けたとき、一体何を考え、どのような行動をとったのか。
本書は、2023年11月に突然訪れたステージ4のがん宣告から、その後の過酷な闘病、そして「お金よりずっと大切なこと」へと行き着いた著者の魂の記録です。
「実務家」としての徹底した生前整理
本書の大きな特徴は、単なる感情的な闘病記にとどまらず、経済のプロとしての「実務的な視点」が貫かれている点です。森永氏は宣告後、真っ先に銀行口座の一本化や投資資産の整理に乗り出します。
かつて自身の父の相続で苦労した経験から、「他人が預金を引き出す手間」を熟知していた彼は、自ら銀行窓口を回り、通帳の再発行や解約を進めます。また、株式や投資信託の売却益と相続税の関係など、「3年以内の処分」が二重課税を避ける鍵になるといった具体的なアドバイスは、まさに経済アナリストならではの知見と言えるでしょう。
さらに、がん患者を狙うSNS型投資詐欺の実態についても、自らの名前が勝手に利用されている現状を交えて厳しく告発しています。
「今やる、すぐやる、好きなようにやる」という哲学
闘病の中で浮き彫りになるのは、著者が44年間の職業人生で貫いてきた「自由と自己責任」の精神です。専売公社(現JT)時代から、三和総合研究所、そして獨協大学教授としての活動に至るまで、彼は常に「仕事は遊び」と捉え、自分が正しいと思うことを周囲に忖度せず実行してきました。
著者が1億8000万円の私財を投じて設立した「B-HO館(B級でおバカだけれどビューティフル)」という博物館への情熱も、その延長線上にあります。世間的には「産業廃棄物(価値ゼロ)」と鑑定されるようなコレクションでも、本人にとっては「金で買えない価値」を持つアートなのです。この「他人の評価ではなく、自分の価値観で生きる」という姿勢は、死を意識した今の彼を支える大きな柱となっています。
「原発不明がん」というシーソーゲーム
治療の過程も、一筋縄ではいきません。当初の「膵臓がん」という診断は、アメリカでの遺伝子パネル検査によって「原発不明がん」へと覆されます。
標準治療としてのオプジーボに加え、1ヶ月100万円もの費用がかかる自由診療(血液免疫療法)を選択した著者は、その莫大なコストを
「著書という遺書を残し、ゼミ生を育てるために支払ったコスト」と割り切っています。がん細胞軍団と免疫細胞軍団の「合戦」をシーソーゲームに例えながら、たとえ一発逆転が叶わなくとも、「いつ死んでも悔いのないように生きてきた」
と語る言葉には、圧倒的な説得力が宿っています。
本当の「幸福な人生」とは何か
本書の後半には、著者自身の死生観を凝縮した「童話集」が収録されています。イソップ寓話のような形式で語られる物語は、現代社会への風刺であり、著者が最後に伝えたかったメッセージでもあります。
最終的に彼が辿り着いたのは、「生活コストを下げ、自由を求める」暮らしです。高報酬のためにストレスフルな仕事をするのではなく、自分が面白いと思える仕事を続け、本当のことを自由に言い続けること。それが、彼ががんに罹患した今、もっとも幸せだと感じる理由なのです。
「人生でやり残したことはほとんどない」。そう言い切る著者の姿は、死を目前にした悲壮感よりも、むしろ一種の清々しさを感じさせます。お金の専門家が最後に見つけた、お金では決して買えない「自由」という名の価値。本書は、今を生きるすべての人に、「自分の人生をどう使い切るか」を問いかける一冊です。